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「EVIL HEART」考察 [漫画・小説]

は~い 読書感想文の第2回で~す

題目は ”武富智”作「EVIL HEART:イビル ハート」

家庭内暴力から逃れる(守る)為に凶暴な性格を内に作ってしまった中学生少年正木梅夫(以下梅と略)が出会った人々の交流や合気道という武道から人との繋がり、やさしさ 自分自身の考えや成長を綴った傑作です

実父のDV、その父の暴力性を自分も受け継いでいるのではと怯え反発しながらも それを払拭するため自らも理由不明な暴力に染まってしまう兄、そんな兄から家族を守ろうと兄を刺して傷害事件を起こし服役中の母、たった二人きりとなった家族を守るため姉真知子は辛苦を内に秘め 主人公の弟は姉と出所してくる母を復讐に燃える兄から守ろうと強さ(力)を求める


週刊ヤングジャンプで2005年から連載されましたがストーリー途中で連載中止になり コミックスも全3巻で止まったままになっていました(その後 全書き下ろしの「氣」編が発売されていましたが最近まで知りませんでしたw)

今年になって完結編2巻が書き下ろしで発売されストーリーも大団円を迎えました
(何度 読んでも目と鼻から涙が流れます (*´Д`*))


よくあるスポーツ漫画とも違う さりとて暴力漫画とも 青春ものとも違うストーリー展開に 連載開始当時から注目してましたが 完結まで書き下ろして頂いた作者の武富氏に感謝です

最近流行りかどうか知りませんが その場限りや読者(編集者含む)の意見などによる展開変更などの影響を受けやすい漫画業界にあって 作者が描きたかったこと・伝えたかったことをストレートに伝えられない中 ”書き下ろし”という手段で最後まで伝えきるというのは相当大変なことなのだと思います
(漫画の感想じゃなくて漫画家の感想だな こりゃw)

良かったら ではなく是非読んでみて下さい!


さて ココから先は多少ネタばれを含む意見を書きますのでちょっと先に延ばします・・・































中学に進学したものの無意識に育った自分の暴力性と 他者から受ける暴力や中傷に対する更なる反発

それがこの話の冒頭の頃の梅でした

当然 上級生からのシメや 過去を知る同級生の家庭内への非難を受け止められず 父や兄から引き継いだ”暴力”という「力」によって蹴散らそうとしますが そこに生まれるのは更なる対立や怯え・恐れ それに伴う暴力の連鎖が続きます

そんな毎日の中でカナダから来たダニエルと合気道に出会う(これが梅の最初の幸せだ)

怒り狂って突進してくる相手も涼やかに流し 組み伏せてしまう合気道
その魅力とは別に単純に兄との対戦のためただ欲してしまう梅に対し 過去の自分を重ねたせいか教えようとするダニエル
氣編で語られることだが ある事件の所為で自分の子供(産前)を失い それを自分の所為と嘆き婚約者を捨て日本に”逃げてきた”が そこで梅のように合気道と出会い人との付き合いや自身の成長にもなったので 梅にもそうなって欲しいと思ったのだと思う

実際 実戦(兄やケンカ相手との闘争)を積んできただけあり 梅の集中力や対応力、技の吸収力は目を見張るものがあり ときとして良くも悪くも周りの人たちに影響を与えたものの 迫り来るXデー(母親の出所日)に想像を絶する重圧(プレッシャー)のため 合気道の本質には至ることができない梅自身は焦りを覚えていた

迎えた夏休み ダニエルを怒らせてしまいカナダに帰ってしまったと勘違いした梅は祖父の住むトロント(ダニエルもトロントに帰っていた)に行き 現地の道場で再開することができた
言葉の違いや馴れない相手のため 逆に基礎である「相手に合わせる」という実感を体験した梅の力量は急速に進み 後遺症で苛む事件の犯人の息子やダニエルの心さえも開放することができた

日本に帰国後 考えを改め他人に頼るという行為が 自尊心喪失や怠惰などではなく人との繋がりだと思い 初めて心を開くが 迎えたXデー当日 合気道の昇進試験会場から自宅に帰宅した梅を待っていたのは「母を殺した」という兄だった

最初は一旦気を静めた梅だったが ダニエル同様に逆上し我を忘れて兄に立ち向かうが 単純なケンカと力のため体力と体格差で劣勢となる
が 体に染み込んだ合気道の技や 級友の応援でなんとか立ち直り劣勢を覆すことができた


母さんを見殺した」と本心を出す兄
家族のために自殺しようとするが「家族と一緒に居たい」と叫ぶ母
兄ちゃんも助けてって言えばいいんだ」と諭す弟

散々すれ違い 他人の思惑や事件、事故のため紆余曲折あれど 人を思うやさしさ 信じる心を漫画的なファンタスティックな展開ではなく じっくりと実感できる第69話は感動ものです


暴力の嵐が過ぎ去った10年後 晴れて姉とダニエルの結婚式で かつて暴力の果て家を出て行き別の家庭を持った憎んでいた父へ 兄からブートニアを渡され 一家揃って二人の門出を祝うことができ梅をはじめ家族全員と新たな家族となったダニエル その光景が訪れるのを待っていた人たちにとって 「幸せ」のゴールではあるけれど 「スタート」でもあるこの瞬間を 私も5年越しで待っていた気がする


・・・って 感想文っていうよりストーリー概要の紹介で終わる気がする・・・


題名の「EVIL HEART」は邪悪な心とも読めるが これは初期の梅の心であり 同時に荒魂という解釈もあるとのことだが 荒れ狂う災害(人災)に対し嵐を鎮めるための儀式・供物として10年間という物語があったのではないかと思います

ついでに

作品によく記載されている「三千世界 一度に開く 梅の花」という道歌
正しくは”三千大千世界”とのことですが ダニエルの解釈の通り 争いごとをはじめとする差別・不平・弾圧が一瞬でも無くなり 全世界に平和が訪れる瞬間が来る為に たとえ少しでも相手を思いやる気持ちを持つことこそ作者の願いであり 私が感じた感想のまとめだと思います


最近 とみに多くなってきた家庭内での暴力や殺人 他人が推し量る以上に当人達にとっては避けることもできず また悩みを安易に打ち明けることもできずに悲しい結末を迎えることになってしまうのだと思います

もし貴方が悩んでいるのなら そして万一周りの人が塞ぎ込んでいるとしたら 決して自分だけで解決しようとしないで「梅」になって「ダニエル」を探してください また「ダニエル」になってください


梅が求めた強さとは 誰にも負けない力ではなく 誰とも気を合わせることのできる心(境地)だったのですから






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